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医療分野ではどのような予防と
安全対策がとられているの?

医療分野でのラテックスアレルギー対策は、医療従事者自身がハイリスクグループでもあることから、自分自身と患者への予防対策およびラテックスアレルギーを発症した患者への対策を計画し実施していく必要がある。日本国内では、ラテックスアレルギー患者の報告例が少ないことから欧米に比べてその対応と認識が遅れている。これまでの行政の対応、医療現場での認識、今後の対応方法について記述する。

[要旨]要旨
1.行政の対応
2.医療現場での認識
3.予防対策のステップ
4.医療従事者への教育研修
5.歯科医療従事者への提言
6.手術室医療従事者への提言

1.行政の対応

1) 医薬品副作用情報No.113〔1992年、厚生省薬務局(現在は、医薬品医療機器総合機構)〕

米国で即時型アレルギー反応であるラテックスアレルギー患者が発生していることを受けて、「手術用手袋等天然ゴム製医療用具によるアナフィラキシー反応について」1)として情報発信を行った。

2)医薬品等安全性情報No.153(1999年)2)

天然ゴムを含む医療用具の表示に関する添付文書の改訂が行われた(表11-1)。これにより、医療用具に関しては、添付文書またはその容器もしくは被包に、「この製品は天然ゴムを使用しています。天然ゴムは,かゆみ,発赤,蕁麻疹,むくみ,発熱,呼吸困難,喘息様症状,血圧低下,ショック等のアレルギー性症状をまれに起こすことがあります」という表示が義務づけられた。

表11 -1 医薬品等安全性情報No.153(1999年)2)
表11 -1 医薬品等安全性情報No.153(1999年)2)

3)パウダー付き医療用手袋に関する取扱いについて(2016年)3)

米国食品医薬品局が、パウダー付き医療用手袋の流通を差し止める処置をとることを発表したことを受けて、厚生労働省は、各都道府県衛生主幹部長宛に、平成30年末までにパウダーフリー手袋への供給切替えを行うように通知を出した。

4)一般向けラテックスアレルギーへの注意喚起(2017年)

厚生労働省、経済産業省、消費者庁が合同で、一般向けのラテックスアレルギーの注意喚起として「天然ゴム製品の使用による皮膚障害は、ラテックスアレルギーの可能性があります。アレルギー専門医に相談しましょう」というパンフレット4)を発行した。

ラテックスアレルギーの一般知識、事例を交えた注意喚起を掲載している。

2.医療現場での認識

医療安全教育の充実や本ガイドラインの発刊などによって、医療現場でのラテックスアレルギーに対する認知度は近年徐々に上昇してきた。2004年に実施された全国498病院を対象としたアンケート調査5)では、ラテックスアレルギーについて「いままで知らなかった」と回答していた病院が12%に認められ、ハイリスクグループである二分脊椎症や交差反応性に関してはほとんど認識されていなかった。また、同時期に行われた単一施設における調査6)でも「ラテックスアレルギーについてご存知ですか」という質問に対して「よく知っている」と回答した割合が医師で45.2%、看護師で26.1%に留まっていた。しかし、2015年の単一施設における同様の調査7)では、「よく知っている」と回答した割合が医師で61.3%、看護師で46.9%であり、認知度は有意に増加していた。ただ、依然として認知度は十分とはいえず、臨床現場における継続的な啓発が必要である。

3.予防対策のステップ

ラテックスアレルギーは即時型アレルギー反応であるので、他のアレルギー疾患と同様に、一次予防としてラテックスアレルゲンへの感作予防、二次予防として感作された者への発症予防、三次予防としてラテックスアレルギーを発症した者への対応としてステップごとに考えていくことができる(表11-2)。

1)一次予防

ラテックスアレルギーのハイリスクグループは、ラテックス製品との曝露頻度の多い者がこのグループにあたる。いわゆるアトピー素因(本人あるいは家族にアレルギー疾患を有するか何らかのアレルゲンに対してIgE抗体が陽性である体質)は、感作を受けやすいことが考えられるので、ラテックスアレルギーにおいてもリスク因子と考えてよい。近年、アレルギー疾患全体の頻度が増加し、国民のおよそ3人に1人が、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎など何らかのアレルギー疾患を有するようになっているので一般人であっても注意が必要である。

医療従事者のうち手袋を必要とするのは、特に手術室医師・看護師、歯科医師、歯科技工士、検査技士が挙げられ、欧米でもラテックスアレルギーの頻度が高い職種と報告されている。感作のリスクを考慮するとラテックスフリー製の手袋の使用が必要であるが、利用者、雇用者の認識の低さとコストが高いためにまだ進んでいない。現状では、タンパク質含有量が少ないもの、パウダーフリー手袋の使用が進んでいる。施設での定期健診時にラテックスアレルギーの有無について問診あるいは検査が行われるべきである。

医療用具を頻回に使用する者、繰り返し手術を必要とする者(二分脊椎症者など)では、ラテックスアレルゲンへの感作の可能性が高いので、カテーテル、手袋などの医療用具は初めからラテックスフリーとする。また、定期健診も必要である。

ハイリスクグループではない一般の人にも、ラテックスアレルギーは報告されている。感作経路が不明の場合もあるが、アトピー素因や医療機関での処置、手術歴のある場合、日常生活、医療以外の職業上で手袋を頻用する場合は注意が必要である。なお、ラテックスアレルギーの有病率は、医療従事者で9.7%、頻回の手術歴を有する患者で7.2%、一般成人で4.3%と報告されている8)

表11 - 2  ラテックスアレルギーの予防
表11 - 2  ラテックスアレルギーの予防

2)二次予防

ハイリスクグループ、一般を問わず検査などでラテックスアレルゲンに感作されていることが判明した人、ラテックス製品に接触すると皮膚の痒み、発赤などラテックスアレルギーを疑わせる症状のある人が対象となる。後者では、ラテックスアレルギーの診断を正確にしておくべきである。これまで明らかな症状がなくても、医療処置時に重篤な症状が現れる可能性があるので、医療機関受診時にはラテックスアレルギーの疑いのあることを告げるべきであり、アレルギー情報カードなどを携帯することを推奨する。また、感作が進まないように日常生活、職業上でのラテックス製品との接触を避け、定期的にチェックする。重篤な症状の既往がなくても、アナフィラキシー発症時の対処方法を習得しておくべきである。

3)三次予防

ラテックスアレルギーと診断され、明らかな症状を経験している場合には、医療、日常、職業上でのラテックス製品との接触を避ける必要がある。医療機関受診時は、ラテックスアレルギーのあることを告げるか、アレルギー情報カードを携帯し提示できるようにしておく。日常生活でも、家事用のラテックス製手袋、玩具、スポーツ用具、その他の日用品での接触を避け、職業上ラテックス製手袋などを使用している場合は雇用者と相談して接触しない環境作りが必要である。定期健診はもちろんのこと、アナフィラキシー発現時の対処方法を熟知しておく必要がある。

4.医療従事者への教育研修

医療従事者は、ラテックスアレルギーに関する知識、対応方法、指導方法を理解し実施できるように研修が必要である。すべての医療従事者が詳細な知識を持つことは困難であるが、一般医療従事者(医師、歯科医師、看護師、検査技士など)とリスクマネージャーまたは管理者に分けると運用しやすい(表11-3)。

1)ラテックスアレルギーに関する知識

ラテックスアレルギーに関して一般医療従事者として医師、歯科医師、看護師、検査技士など、直接患者と接触する職種では、最低限の知識として必要な項目を表11-4に示す。

さらに、医療施設での管理者、リスクマネージャーとして必要な知識は、一般医療従事者の知識(表11-4)に加えて、次の項目についても必要である(表11-5)。

医療従事者がラテックスに感作された環境によってラテックスアレルギーは職業性アレルギー疾患であり、雇用者にその責任が発生する可能性がある。

表11 - 3  医療従事者への教育研修内容
表11 - 3  医療従事者への教育研修内容
表11 - 4 一般医療従事者のラテックスアレルギーの基本的な知識
表11 - 4 一般医療従事者のラテックスアレルギーの基本的な知識
表11 - 5 管理者、リスクマネージャーのラテックスアレルギーの基本的な知識
表11 - 5 管理者、リスクマネージャーのラテックスアレルギーの基本的な知識

2)ラテックスアレルギーの対応方法

医師、歯科医師、看護師など、直接患者と接触する職種の者が、実際にラテックスアレルギー患者あるいは疑う患者を診察するときには、表11-6に挙げる項目の対応ができることが望ましい。医療施設での管理者、リスクマネージャーとして必要な対応は、表11-6に加えてさらに表11-7のような項目がある。

3)医療従事者への研修方法

ラテックスアレルギーは、単なる一疾患として診療レベルで扱うべき疾患ではなく、医療機関で発生した場合には、医療事故として扱われる可能性があることを認識すべきである。

あらかじめ、患者からラテックスアレルギーのあること、あるいは疑いのあることを告知された場合、あるいはハイリスクグループの患者であることがわかっている場合には、医療者として注意する義務が発生すると考えるべきである。したがって、医療従事者への研修は、リスクマネージメント研修として医療管理者の責任において実施すべきである。研修の実施にあたっては、医療施設内で十分な知識を持った者を養成し、その者が一般医療従事者に最低限必要な知識と対応方法について研修を行う機会を設けるようにする。研修は他のリスク研修と同様に、①事例紹介、②疾患概念、③ハイリスクグループ、④対応方法である。

表11 - 6 ラテックスアレルギーを疑う際に必要な対応
表11 - 6 ラテックスアレルギーを疑う際に必要な対応
表11 - 7 管理者、リスクマネージャーのラテックスアレルギーを疑う際に必要な対応
表11 - 7 管理者、リスクマネージャーのラテックスアレルギーを疑う際に必要な対応

5.歯科医療従事者への提言

ハイリスクグループの中でも、特に有病率の高い歯科医療従事者、手術室医療従事者については別途、提言をしておく。

歯科診療では、血液や唾液への曝露による感染リスクがあることから、手袋の使用がスタンダードプレコーション(標準予防策)とされている9)。2016年の厚労科研報告書10)でも、歯科医師のなかで、手袋を「使用しない」と回答したのは1%のみで、「全症例に使用」は患者ごとの交換の有無を合わせると81%であった。このため、歯科医療従事者には職務に関連したラテックスアレルギーの発生がしばしば生じることが知られている11)。また、同時に歯科診療の多くの場面でラテックス手袋に触れる歯科を受診する患者にも、ラテックスアレルギーのリスクがあることに注意を要する。歯科診療時におけるラテックスアレルギーの予防と発症時の対応として、表11-8に挙げる指針を実施すべきである。

表11 - 8 歯科診療時におけるラテックスアレルギーの予防と発症時の実施すべき対応
表11 - 8 歯科診療時におけるラテックスアレルギーの予防と発症時の実施すべき対応
表11 - 9 手術室医療従事者の留意事項
表11 - 9 手術室医療従事者の留意事項

6.手術室医療従事者への提言

手術室医療従事者は、ハイリスクグループの中でも特に有病率が高いグループである。手術室内は、血液への曝露による感染リスクがあることから、手袋の使用がスタンダードプレコーション(標準予防策)とされている。手術室内では医療者も手術を受ける患者もしばしばハイリスクグループであることに注意を要する。表11-9に手術室医療従事者の留意事項を挙げる。また、手術室でのチェックポイントの例を表11-10にまとめた。

表11 - 10  手術室でのチェックポイントの例
表11 - 10  手術室でのチェックポイントの例
参考文献
1) 厚生省薬務局.手術用手袋等天然ゴム製医療用具によるアナフィラキシー反応について.医薬品副作用情報No.113, 1992.
2) 医薬品医療機器総合機構.使用上の注意の改訂.医薬品等安全性情報No.153, 1999.
3) 薬生機審発1227第1号, 薬生安発1227第1号. 2016
4) http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/release/pdf/170331kouhyou_1.pdf
5) 明石真幸, 大矢幸弘, 赤澤 晃.医療機関におけるラテックスアレルギー対策に関するアンケート調査.日本ラテックスアレルギー研究会誌.2004;26:9-26.
6) 明石真幸.医療機関におけるラテックスアレルギー対策調査と現状-リスクマネージャー,看護部長の視点から-.日本ラテックスアレルギー研究会誌. 2004;8:26-31.
7) 吉田明生,夏目 統,成田雅美,他.当院におけるラテックスアレルギー対策に関するアンケート調査.日本ラテックスアレルギー研究会誌. 2015;19:79-82.
8) Miaozong Wu, James McIntosh, Jian Liu. Current prevalence rate of latex allergy:Why it remains a problem? J Occup Health. 2016;58:138-144.
9) Kohn WG, Har te JA, Malvitz DM, et al. Guidelines for infection control in dental health care settings--2003. MMWR Recomm. 2003;52:1-61.
10) 江草宏.歯科医療安全対策の観点からみた歯科医療機関における歯科用ユニットの管理等に関する研究 ベースライン調査.厚労科研報告書.2016.
11) Hamann CP, Turjanmaa K, Rietschel R, et al. Natural rubber latex hypersensitivity:incidence and prevalence of type I allergy in the dental professional. J Am Dent Assoc. 1998;129:43-54.
12) CDC. National Institute for Occupational Safety and Health. NIOSH Alert:preventing allergic reactions to natural rubber latex in the workplace. Cincinati, OH:US Department of Health and Human Services, Public Health Service, CDC, National Institute for Occupational Safety and Health, 1997.