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ゴム手袋における化学物質による
アレルギー性接触皮膚炎
(遅延型アレルギー)ってどんな病気?
アレルギー性接触皮膚炎(遅延型アレルギー)

[要旨]要旨
1.化学物質による遅延型アレルギーの背景
2.臨床症状
3.ゴム手袋によるアレルギー性接触皮膚炎の原因アレルゲン
4.検査方法
5.予防・治療・生活指導・適切な手袋の選択

1.化学物質による遅延型アレルギーの背景

接触皮膚炎は、外来性の物質、主に化学物質が皮膚に接触することによって発症する反応を指す皮膚の炎症である。発症機序によってアレルギー性接触皮膚炎(遅延型・Ⅳ型アレルギー)や刺激性接触皮膚炎、光が関与する光接触皮膚炎などに分類される。アレルギー性接触皮膚炎は、皮膚に接触する分子量が1,000以下の化学物質により誘発される遅延型(Ⅳ型)アレルギーであり、臨床症状としては痒みを伴う湿疹反応、いわゆる“手荒れ” を生じる。ゴム手袋には、通常、製造の段階において加硫促進剤や老化防止剤などの化学物質が添加されており、これらがアレルギー性接触皮膚炎の原因となる1)。ゴム手袋によるアレルギー性接触皮膚炎は医療従事者の職業性皮膚疾患の一つとされ2)、加硫促進剤は主な原因であり、これは天然ゴム、合成ゴムのどちらの手袋にもほとんどの製品で含まれている。

2.臨床症状

ゴム手袋によるアレルギー性接触皮膚炎では、痒みを伴う紅斑、浮腫、漿液性丘疹、乾燥、亀裂が手指に出現し、慢性に経過すると苔癬化し、難治化する(図10-1)。

図10 -1 アレルギー性接触皮膚炎
図10 -1 アレルギー性接触皮膚炎

3.ゴム手袋によるアレルギー性接触皮膚炎の原因アレルゲン

ゴム製品を製造する際にはさまざまな化学物質が添加されているが、その中の加硫促進剤は主な原因アレルゲンとされる。ゴムの弾性を作り出すためにはゴムを架橋させる物質の添加が必要であり、架橋には硫黄がよく使われる。硫黄による架橋を「加硫」といい、加硫によりゴムは弾性、耐熱性、耐疲労特性を持つ。また、「加硫」には時間を要するため、加硫時間の短縮とゴム製品の物性の安定化を得ることを目的に「加硫促進剤」が使用される3)

代表的な加硫促進剤としては、チウラム系化合物、ジチオカーバメイト系化合物、メルカプト系化合物などが挙げられる。その他、老化防止剤ではN-イソプロピル-N-フェニル-p-フェニレンジアミンなどが挙げられる。わが国におけるアレルギー性接触皮膚炎の主要なアレルゲンである、加硫促進剤関連試薬であるチウラムミックス〔tetramethylthiuram disulfide(TMTD)、tetraethylthiuram disulfide(TETD)、tetramethylthiuram monosulfide(TMTM)、tetrabuthylthiuram disulfide(TBTD)、dipentamethylenethiuram tetrasulfide(DPTT)〕の陽性率は、1994年以降2~3%で推移してきたが、2010年度、2011年度は5.2%、5.3%と増加し、その後、2012年度、2013年度は再び3%台と陽性率が下がり、2014年度は再び5.4%と増加しており、ゴム製品の感作が増えていることが予想されると報告されている4)

4.検査方法

アレルギー性接触皮膚炎の原因を明らかにするためにはパッチテストを施行する。パッチテストを行う際には、患者が使用していたゴム手袋に加えて、代表的な加硫促進剤や老化防止剤を含むパッチテストパネル®(S)(佐藤製薬)を貼布することが勧められる。

5.予防・治療・生活指導・適切な手袋の選択

アレルゲンの回避がアレルギーの発症を防ぐ唯一の方法であるため、手荒れなどの症状が出現した際には原因と考えられるゴム手袋の使用を中止・変更して、手湿疹の治療を行う。

(1)治療:接触皮膚炎を含む手湿疹に対しては外用ステロイド薬の有効性が示されている5)。症例によっては経口ステロイド薬や抗ヒスタミン薬が使用される6)
(2)バリアクリーム,保湿剤:アレルギー性ではない湿疹、つまり刺激性接触皮膚炎の予防としてはバリアクリームを使用することが推奨されている7, 8)。バリアクリームがアレルギー性接触皮膚炎を予防するエビデンスはないが、スキンケアとしてバリアクリームを塗布し皮膚のバリア機能を高めておくことは有用である。
(3)手袋使用時の工夫:長時間のゴム手袋の使用はバリア機能を障害するため、ゴム手袋の下に綿の手袋を使用することが勧められる。多くの職業・職場で手袋を使用することは必須であることが多いが、手袋の使用時間を最小限にし、ゴム手袋に綿の手袋を併用するなどの対策を行えば皮膚バリア機能障害を防ぐことができる。
(4)適切な手袋の選択―加硫促進剤フリーゴム手袋:現在、加硫促進剤を含まない手袋が市販されており(表10-1表10-2)、医療現場などの職場において使用する手袋は原材料を確認して選択することが勧められる。有料であるが、一般財団法人化学物質評価研究機構(http://www.cerij.or.jp)で残留化学物質量を分析し、安全性を検討することも可能である。しかし、含有した加硫促進剤が検出されなくてもアレルギー性接触皮膚炎を発症することがあるため、適宜パッチテストなどで原因物質を確認するとともに、医療施設で手袋を購入する際には、製造過程における加硫促進剤含有の有無を製造会社に確認することが勧められる9)

表10 - 1  手術用加硫促進剤フリーゴム手袋一覧
表10 - 1  手術用加硫促進剤フリーゴム手袋一覧
表10 - 2  検査検診用加硫促進剤フリーゴム手袋一覧
表10 - 2  検査検診用加硫促進剤フリーゴム手袋一覧
参考文献
1) Higgins CL, Palmer AM, Cahill JL, et al. Occupational skin disease among Australian healthcare workers:a retrospective analysis from an occupational dermatology clinic, 1993-2014. Contact Dermatitis. 2016;75: 213-22.
2) 日本職業・環境アレルギー学会ガイドライン専門部会. 職業性アレルギー疾患診療ガイドライン2016.協和企画, 東京, 2016, pp76-121.
3) 小松智幸. 加硫促進剤. 日本ゴム協会誌. 2009; 82 : 33-8.
4) 鈴木加余子, 松永佳世子, 矢上晶子, 他. ジャパニーズスタンダードアレルゲン(2008)2013年度・2014年度陽性率. J Environ Dermatol Cutan Allergol. 2017; 11: 234-47.
5) Veien NK, Olholm Larsen P, Thestrup-Pedersen K, et al. Long-term, intermittent treatment of chronic hand eczema with mometasone furoate. Br J Dermatol. 1999; 140: 882-6.
6) Faghihi G, Iraji F, Shahingohar A, et al. The efficacy of '0.05% Clobetasol+2.5% zinc sulphate' cream vs.'0.05% Clobetasol alone' cream in the treatment of the chronic hand eczema:a double-blind study. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2008; 22: 531-6.
7) Held E, Agner T. Effect of moisturizers on skin susceptibility to irritants. Acta Derm Venereol. 2001; 81:104-7.
8) Loden M. Barrier recovery and influence of irritant stimuli in skin treated with a moisturizing cream.Contact Dermatitis. 1997; 36: 256-60.
9) Cao LY, Taylor JS, Sood A, et al. Allergic contact dermatitis to synthetic rubber gloves:changing trends in patch test reactions to accelerators. Arch Dermatol. 2010; 146: 1001-7.