緊急時にはどのように対応・治療するの?
ラテックスアレルギーの即時型アレルギー症状の重症度は、局所の接触蕁麻疹からアナフィラキシーショックまで幅広い。そのため、それぞれの症状に応じた治療および予防のための生活指導が必要になる。医療従事者には、特にアナフィラキシーショックなどの緊急時への準備、対応や一般的な日常生活における生活指導が求められる。ここでは緊急時の対応・治療について述べ、日常生活における生活指導については第12章を参照していただきたい。
1.ラテックスアレルギーの重症度評価
まず、症状の重症度を評価して治療にあたる。重症度評価には、Krogh & Maibachの接触蕁麻疹症候群の分類1)(表9-1)や、『食物アレルギー診療ガイドライン2016』にも収載されている臨床所見による重症度分類(表9-2)2)を利用するとよい。
接触蕁麻疹症候群のステージ分類ではステージⅢ以上を、アナフィラキシーガイドラインの重症度分類ではグレード3の症状を含む複数臓器の症状またはグレード2以上の症状が複数ある場合をアナフィラキシーと判断する。
2.重症例(アナフィラキシー)の治療(ステージⅢまたはⅣ,グレード3または2)
1)初期治療
初期対応は、まずバイタルサインを確認すると同時に、周囲に助けを呼び、人を集める。アナフィラキシーを発症した際には、体位変換を契機として急変する可能があるため3)、急に座らせることや立ち上がらせることを避けて、患者を仰臥位にして下肢を挙上させる体位をとる。
高流量(6~8L/分)の酸素投与を開始するとともに直ちにアドレナリン(0.01mg/kg)を大腿の前外側に筋肉注射する(図9-1)。必要に応じて10~15分ごとに再投与する。また循環血液量を保つために、太めの血管内留置カテーテルで静脈ルートを確保し、生理食塩水や細胞外液などを急速(最初の5~10分間での投与速度は成人では5~10mL/kg、小児では10mL/kg)に投与する。
治療を行うにあたり、医療従事者はラテックスフリーの手袋を使用して、酸素マスクやアンビューバッグ、尿道カテーテルなど、皮膚や粘膜に触れる物はすべてラテックスフリーで対応する。また、点滴ルートやバイアル瓶などに天然ゴムの含有の有無を確認して、必要があれば除去する。
(1)アドレナリンの投与(表9-3)
アドレナリンの投与にあたっては、表9-2に示すように、重症度・症状を確認する。アドレナリンは製剤として、ボスミン®注1mg、アドレナリン注0.1%シリンジ「テルモ」、エピペン®注射薬0.15mg/0.3mgが使用できる。アドレナリンは筋肉内注射で投与する。蘇生などの緊急時には、アドレナリンとして、通常、成人1回0.25mgを超えない量を生理食塩液などで希釈し、できるだけゆっくりと静注する。
(2)アドレナリン以外の薬物治療
アナフィラキシーでは、アドレナリンが第1選択薬であるが、追加治療として抗ヒスタミン薬の静脈内投与(クロルフェニラミンなど)、気管支拡張薬の吸入を検討する。2相性反応の予防を目的としてステロイド薬(ヒドロコルチゾンやメチルプレドニゾロン)が使用されることがある。
2)初期治療に反応が乏しい場合
アナフィラキシーの初期治療を行っても反応が乏しい場合には、救命救急医や麻酔科医などからなる院内の蘇生専門チームによる対応が望ましい。ショック症状が改善しなければ、アドレナリンの静脈内投与や昇圧薬などが必要となることもある。また、喉頭浮腫があり、アドレナリン投与によって気道狭窄が改善しない場合は気管挿管、さらに気管切開や穿刺が必要な場合もある。
3.軽症・中等症例の治療(ステージⅠまたはⅡ,グレード1または2)
接触した部位に生じた蕁麻疹の場合(ステージⅠ)は、通常は原因となったラテックス製品との接触を断つことで症状は1時間以内に自然に消退する。接触した部位を水でよく洗浄し、症状を早期に消退させるために抗ヒスタミン薬を内服させる。
接触部位を超えて蕁麻疹が全身に拡大する場合(ステージⅡ)は、抗ヒスタミン薬を内服させて、呼吸器症状や消化器症状など、症状の拡大や進行がないかどうかを繰り返し観察する必要がある。
4.ラテックスアレルギーに対応するために医療機関で準備すべき医療備品
治療や検査に必要な医療機器、そして救急カートなどの緊急物品は、すべてラテックスフリーで揃えておくことが望ましい(表9-4)。
5.アドレナリン自己注射薬
過去にアナフィラキシーを発症した患者や、強くその既往が疑われる患者には、再度重篤な症状が誘発される場合への対応として、抗ヒスタミン薬に加えて、アドレナリン自己注射薬(エピペン®)を処方し、携帯を指導する。
エピペン®は体重に応じて2種類あり、体重15~30kg未満用の「エピペン®注射液0.15mg」と体重30kg以上用の「エピペン®注射液0.3mg」がある。患者には処方前に使用方法や注意点などについて十分に説明し、さらに医師が使用方法、使用のタイミング、そして保管の方法を指導したうえで処方する。なお、本製剤の処方に際しては医師が講習を受けることが必要である。
1)エピペン®の使用方法
エピペン®の使用方法については、図9-2のように写真付きの説明書と「エピペン練習用トレーナー」(製薬企業の無償貸与)を使用しながら実践的に行う。エピペン®の再処方時にも繰り返し指導を行う。
2)一般向けエピペン®の適応(日本小児アレルギー学会)
エピペン®を携帯している患者がどのような症状の際に使用すべきかについて、日本小児アレルギー学会から表9-5のように適応が示されている。使用のタイミングについてこの基準をもとに説明し、紙に書いて渡すことが望ましい。
- 参考文献
- 1) von Krogh VG, Maibach HI. The contact urticaria syndrome-an updated review. J Am Acad Dermatol.1981;5:328-42.
- 2) 柳田紀之, 宿谷明紀, 佐藤さくら, 他. 携帯用患者家族向けアレルギー症状の重症度評価と対応マニュアルの作成および評価. 日小ア誌. 2014;28:201-10.
- 3) Pumphrey RS. Fatal posture in anaphylactic shock. J Allergy Clin Immunol. 2003 ; 112 : 451-2.
- 4) 日本アレルギー学会Anaphylaxis対策特別委員会. アナフィラキシーガイドライン. 2014.